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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

桝がいいんだ」

で、五合桝に八分目の酒を受取ると、角に口を当てて、キューッとあおった。酒に弱い方ではなかったが、嘗つてこんな飲み方をしたことがないので、毒でも飲んだ様に不気味だった。いきなり顔が熱くなって来た。

もう一杯というのを、酒屋の方で迷惑がって、どうしても承知しないものだから、彼は仕方なくフラフラと歩き出した。何だか力一杯呶鳴ってみたい様な気持ちだった。

「俺は人殺しだぞ。たった今人間を殺して来たんだぞ」と。

だが流石に本当に呶鳴りはしなかった。その代りに、非常に古風な、学生時代に覚えた小唄を、溜息みたいにうなりながら、態とひょろひょろよろけて歩いた。

夜更けの街燈の目立つ、ガランとした町を二三町歩くと、一軒のバーが、まだ営業していたので、そこへ這入って、洋酒と日本酒をチャンポンに、したたか飲んだ。そして、何か愚図愚図訳の分らぬことを呟きながら、女給に追い立てられるまで、腰を据えていた。

「そんなに呑みたいんなら、吉原土手へ行けばいい、あすこなら朝までだって呑めるんだから」

女給に毒づかれて気がつくと、所謂吉原土手は直き近くだった。

彼は又ひょろひょろしながら、妙な鼻歌を歌いながら、まだ起きているバーを探して歩き出した。