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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

一寸だめし五分だめし

例えば、この僕が品川四郎ではなくても、彼の百層倍も×××××とそっくりの顔をしていたと考えてごらんなさい。……ね、分るでしょう、それがどれ程恐ろしい意味を持っているか……」

彼は段々演説口調になりながら、この美しい聞手を前にして、いい気持ちになって、何事かを喋ろうとしていた。もう少し放って置けば、どんな恐ろしい秘密を打明けたかも知れないのだ。だが、折角の所で、とんだ邪魔が這入ってしまった。

一寸だめし五分だめし

その時、上の空で、悪魔の演説を聞いていた芳江が、何か見たのか、突然「ヒー」と云う様な、恥も外聞も忘れた悲鳴をあげて、一方の壁へ、蜘蛛の様にへばりついてしまった。

「オヤ、どうかしましたか」

男は態とビックリした様子で尋ねたが、彼女が驚くことは最初から予期していたのだ。

「アア、あの床の赤黒い痕ですか。御想像の通り血ですよ。ハハハハ、だが、血は血でも、人間のじゃありません。動物のでもありません。お芝居に使う紅ですよ。ホラこれです。ごらんなさい」

彼は云いながら、ポケットから小さな膠玉を取り出して、ハシッと壁にぶっつけた。膠が破れて、濃い血のりが、その壁が生きた人間の胸ででもある様に、タラタラと流れた。