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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

不可思議力

「のいて下さい。あなたは誰です。一体誰です」

雪江は父を睨みつけながら、一生懸命に云った。

「誰でもない。お前のお父さんだよ」

「違います。違います。……お父さまじゃない。……アア、怖い」

雪江は気が違いそうだった。確かに父の顔を持った男が、どこかしら父ではないのだ。

ハッと思う間に、世界一杯の白髪鬼が、恐ろしい形相で飛びかかって来た。彼女はもう振ほどく力はなかった。気を失った様に、たわいなく、されるがままになっている。

再び身動きもならぬ抱擁、顔に降りかかる男の息、父とは違ういとわしい匂、そして、ヌメヌメと不気味な唇の触感。…………

不可思議力

裏門の騒ぎというのは、職工風の男が、ジロジロ邸内を覗き込んでいるので、見張りの刑事が引捕えて検べようとすると、いきなりピストルを取出して手向いをした。勇敢な一刑事は賊に組みついたが、一振りではね飛ばされてしまった。

賊はピストルを構えて、グングン邸内へ這入って来る。騒ぎが大きくなった。家中の男子が現場へはせつけた。相手は一人だけれど飛び道具を持っているので、うかつに近寄れぬ。人々は彼を遠巻きにして騒ぎ立てた。