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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
滝壺の真下を見やると、二丈の高さから落ちる幾百石の水がそのまま、深い底近くまで巨大な柱になって、余勢が尽きると、無数の真白な泡と砕け、沸々と水面に向ってたぎり昇っている恐ろしい有様だ。
だが、見慣れた少年は何とも思わない。それよりも水底の雑物の間に、何か舟の仲間への御土産になる様な品物が落ちていないかと、息の続く限り、泥の間を泳ぎ廻っていた。
ふと見ると、五六間向うの泥の中に生えて、ヒラヒラしている白いものが目についた。幾百度と数え切れぬ程同じ水底にもぐっている少年だが、こんな変てこな感じのものに御目にかかったのは初めてだった。動物の骨ではない。もっと太くて、グニャグニャして、何となく生きている様に思われるのだ。
彼は好奇心を起して、そのものに近づいて行った。水の層をかき分ける毎に、そのものの姿はハッキリして来た。泥水の底のこと故、あたり一帯、場末の電力の乏しい活動写真みたいに異様にドス黒い。その中に、クッキリと青白いそのものが、本当に泥から生えた感じで、五本に分れた先端が、水を掴んでもがいている。
生きた人間の、恐らくは女の、断末魔の苦悶の手首だ。