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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

この世に二人の品川四郎が存在せること

ほんの一瞬間であった。邪魔になると注意でもされたのか、その顔は、こちらを見たかと思うと、忽ち画面から消えてしまった。

その刹那、愛之助はギョッとして息が止まった。大抵は予期していたのだけれど、彼の隣の見物席に坐っている、品川四郎の顔が、畳一畳程の大きさになって、前のスクリーンへ現われた感じは実以て異様なものであった。

偶然「怪紳士」の画面に顔を出した、見物人というのは、品川四郎その人であったのだ。

この世に二人の品川四郎が存在せること

その場面は八月二十三日京都四条通で撮影されたことが分っている。と同時に、その同じ日に、品川と愛之助とは、東京の帝国ホテルで一緒に昼飯を食った。両方とも間違いはない。すると品川四郎は、同日に東京と京都と両方にいたことになる。だが両都の間には特急十時間の距離がある。京都市街の撮影を見物して、同じ日の昼飯を東京で食うなんて、全然不可能な事だ。

そこで、この日本に、品川四郎とソックリの男が、もう一人別に存在するという結論になる。九段でスリを働いたのも、そのもう一人の方の品川四郎に相違ないのだ。

「君はどう考えるね。僕はあれを見てから、この世がひどく変てこなものに思われて来たのだよ」