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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

老人は目尻に皺をよせてニヤニヤしながら、長い髯を手で掴んで、キュウキュウと左右にふり動かしていたが、すると髯全体がゴムのように伸びはじめた。イヤ、伸びたのではない。離れたのだ。皮をはぐように、髯の根元が顎から離れて来たのである。

顔中の鬚を取り去ってしまうと、今度はモジャモジャの頭髪に手がのびた。それが左の方からクルクルとむけて行った。白髪の下から黒い若々しい髪の毛が現われて来た。

愛之助はヒョイト立上って、いきなり逃げ出そうとした。鬘とつけ髯の下から現われて来る顔を見たくなかったからだ。しかし見てしまった。もう逃げ出す力もない。ヘナヘナと元の椅子に腰をおろした。

怪老人の顔の下から新らしく生れた別人の顔がニヤニヤ笑っていた。笑っている口がどこまでも無限に拡がって行くような感じであった。

「ハハハハハハハ、どうです。品川四郎というのはこんな顔じゃなかったかね」

老人の声が品川四郎の声に変っていた。顔も品川と寸分違わなかった。三人目の品川四郎が忽然としてここに現われたのである。

「オオ、あんたは? 君は?」

それ以上口を利くことも出来なかった。愛之助は恐ろしい悪夢の中に悶えていた。