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りょうきのはて

猟奇の果

江戸川 乱歩

前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页

青空文庫

墓場みたいなカフェである。その癖、暖房の装置はあるのか、ホンノリと暖か味が通って不愉快な程寒くはない。

青木は、大声に給仕を呼ぶのも野暮だと思ったので、先ず椅子につく為に、片隅の鉢植の葉蔭へ這入って行った。そしてドッカリ腰をおろした時、彼は意外にも、その同じテーブルに一人の先客がいることを発見した。薄暗い中でも薄暗い、部屋の隅っこだったのと、その客が非常に静かにしていたので、つい気附かなんだのである。

「失礼」と云って席を換えようとすると、その客は「イヤ、どうかその儘。僕も丁度相手がほしくっていた所ですから」と手でとめるのだ。見ると、中年の洋服紳士で、どことなく人懐っこい男である。それに中々凝った仕立ての、安くない服を着ている。青木はブルジョアの癖として、そんなもので相手の身分を想像し、安心して彼のお相手をする気になった。

やがて、いないと思った給仕が、どこからか影の様に現れて、注文の品々を運んで来た。決してまずい料理ではない。酒も上等のものが揃っている。そこへ持って来て、人懐っこい話相手。愛之助はすっかり上機嫌になってしまった。

「居心地の悪くない家ですね」