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りょうきのはて
猟奇の果
江戸川 乱歩
前篇 猟奇の果、後篇 白蝙蝠「文藝倶楽部」博文館、1930(昭和5)年1月~12月<br>「猟奇の果」もうひとつの結末「猟奇の果」日正書房、1946(昭和21)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 134,971 字 · 270 页
池の向うの森蔭から、絶間なく木馬館の十九世紀の楽隊が響いて来た。風の都合で、馬鹿に大きな音になったり、或時は幽かになって、露天商人の呼声に混り合って、ジンタジンタと太鼓の音ばかりが聞えたりした。うしろの空地では、書生節のヴァイオリンと、盲目乞食の浪花節とが、それぞれ黒山の聴手に囲まれて、一種異様の二重奏をやっていた。二重奏と云えば、つまるところ、公園全体が一つの大きなオルケストラに相違なかった。ジンタ楽隊、安来節の太鼓、牛屋の下足の呼声、書生節、乞食浪花節、アイスクリームの呼声、バナナ屋の怒号、風船玉の笛の音、群集の下駄のカラコロ、酔っぱらいのくだ、子供の泣声、池の鯉のはねる音、という千差万別の楽器が作る、安っぽいが、しかし少年の思い出甘いオルケストラ。
「モシ!」
突然耳元で、囁く様に、古風に呼びかける声がした。振向くとさっきの美しい青年が、立って来て、いつの間にか彼の側へ寄っていた。
愛之助はハッと当惑した。浅草ウルニングの誘いには、一度こりていたからだ。
「ナニ?」
妙なことには、彼は女みたいなアクセントで聞き返した。丁度商売女とでも話をする様に。