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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

「ええ、そう、あれなんですよ」

「ああ、あの、繭玉のようなもの?」

「ええ、そうなのよ、―――『十日戎の売物は』―――」

と、丹生夫人は口のうちで「十日戎」の唄を節をつけて云いながら、

「―――『風袋に、とりばち、銭叺、小判に、金箱、立烏帽子、………』」

と、一つ一つ指を折って数えて、

「―――そんなものがいろいろ笹の枝に喰っ着けてあるのよ。あれを大阪では、字で書けば『吉兆』なんだけれど、訛ってキッキョウって云うんですの。そうでしょ、蒔岡さん」

「ええ、そう。―――しかし奥さんがキッキョウを知っていらしったとは意外ですな」

「人は見かけに依らないもんでしょ。あたしこう見えても大阪生れなんですのよ」

「へえ、奥さんが?」

「だからそのくらいなことは知ってますわよ。けど今時そんな旧弊な読み方をする人があるか知ら。此処の家の人もキッチョウって云ってるようだわ」

「じゃあもう一つ伺いますが、今の『十日戎』の唄の中にある『葩煎袋』と云うのは何の事ですか」

「『ハゼ袋』?―――『風袋』じゃないの? 『風袋に、とりばち、銭叺』………」

「それが違います、『葩煎袋』が正しいんですよ」

「『ハゼ袋』