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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
そんな訳で、むしろチブスの疑いがあったくらいなので、万事の処置が手後れになって、一層病勢を悪化させたのであった。
「何処で移って来たのんやろう。何ぞ悪いもん食べたのか知らん」
「はあ、鯖鮨をお上りになった云うことでございます」
「何処で食べたん」
「発病なさった日の夕方、若旦那さんと神戸へ散歩においでになって、『喜助』云う家でお上りになったのやそうで、………」
「そんな家、聞いたことないな、雪子ちゃん」
「聞いたことないな」
「何でも福原の遊郭の中やそうで。………そこのお鮨がえらいおいしい云うことなので、一遍行って見よう思うてはりましたのんで、新開地へ映画見に行かはりました帰りにお寄りになったのやそうでございます」
「啓坊はどないもないのん」
「はあ、若旦那さんは鯖がお嫌いで、お上りにならなんだそうで。………こいさんだけお上りになりましたのんで、やっぱりあの鯖に違いない仰っしゃっていらっしゃいます。………けど、そんなにたんとお上りになったのと違いますそうで、………それに、ちょっとも古いことなかった、ほんまに生きの好え新しい鯖やったそうでございますが、………」
「鯖は恐いわ、新しいても中ることがあるよって」