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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
「まだ決心がついた訳やないねん。端の者は総掛りですすめてるねんけど、当人はなかなか行こうと云うことを云わへんねん」
「そら無理もないわなあ、船場生れの坊々が満洲落ちをしやはるのやよってに」
「けど啓ちゃんも、今ではえらいお金に困ってて、もうあの家にも住んでられんほど生活に窮してるねんわ。そうか云うて、大阪では雇うてくれる人もあれへんし、あんまり身を落す訳にも行かんし、こんなええ口は又とあれへんねん」
「そう云えばそうやわな。―――そう云う役は誰にでも勤まる云うもんやあれへん。啓坊でなけりゃならん役やわ」
「そうやねん、そやよってに給料かて相当出すらしいのんで、うちも極力すすめてるねんわ。まあ長いことでのうてもええ、一二年でもそないしてたら、兄さんかて機嫌直しやはるし、世間の信用も附くやろうし、どうでも一と奮発しなさい云うて。―――」
「一人やったら心細いやろさかいに、婆やさんでも附いてったげたら?」
「附いて行ったげたい云うてはるねんけど、あの人も息子や孫があって、満洲まではよう行かはらんらしいねん」
「こいさん附いて行ったげえな」
と、雪子が云った。
「啓坊を更生さすためやったら、それぐらいのことしたげてもええやないの」