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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

「へえ、満洲へ?」

と、幸子と雪子とが同音に聞くと、

「それが可笑しいねんわ」

と云って、妙子は笑いながら話すのであった。―――自分もよくは知らないのだが、実は今度、満洲国の役人が日本へ来て、満洲国皇帝のお附になる日本人を二三十人募集している。お附と云っても式部官だの侍従だのと云う高級官吏ではなく、単に皇帝の側近に仕えて身の周りの世話をするボーイのようなものであるから、智能や学問はどうでもよい。ただ素姓のはっきりしている者、ブルジョア育ちの、容貌が端正で儀礼や身嗜みの心得のある者、と云うことなので、つまりお上品な坊々でさえあれば頭は少しぐらい低能でもよい、と云うのであるから、全く啓ちゃんに持って来いの口なのである。それで啓ちゃんの兄さんたちも、そんな口があるなら是非その募集に応じて満洲へ行け、皇帝のお附なら人聞きもよいし、仕事は何もむずかしいことはないのだろうから、啓三郎には実に向いている、啓三郎がその気になって満洲へ行くなら、門出の祝いに勘当を許してやろう、と、そう云っているのであると云う。

「ほんまに結構な話やけど、………でもまあ啓坊がよう決心しやはったわな」