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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

「そやけど、よう因果を含めて見て、それでも分ってくれはれへなんだら、その時逃げて帰って来たかてええやないの」

「そんなことしたら、勤めも何も放っといて跡追うて来るに極まったある」

「そらまあそうかも知れんけど、今迄の義理考えたら、別れるなら別れるで、ちゃんと尽すだけのことは尽さんといかんやろ、思うよってに。―――」

「うち、何も啓ちゃんにそないせんならん義理あれへん」

幸子は、これ以上云うと勢い口論になりそうなので、あとを控えてしまったが、

「義理がないと云えるやろか」

と、雪子が云った。

「こいさんと啓ちゃんとは、世間の人が誰でも知ってるほど旧い旧い関係やないの」

「うちは疾うからその関係を断ちたい思うてたのんやわ。向うが執拗うて、勝手に附き纏うてたんやもん、義理どころやあれへん、迷惑してるぐらいやわ」

「こいさん、経済的にもいろいろ啓坊に厄介かけてることがあるのんと違う?―――こう云うたら何やけど、お金のことでも世話になってるのんと違う?」

「阿呆らしい、そんなこと絶対にないわ」

「ほんまかいな」

「うち、そんなことせんかて自分の稼ぎでやって行けたし、貯金もしてたと云うこと、雪姉ちゃん知ってるやないの」