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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
「こいさんはそない云うけど、世間ではそう思うてえへん人もあるねんわ。あたしかて、ついぞ一遍もこいさんの貯金帳や小遣帳見せてもろたこともないし、どれぐらい収入あるのんか、ほんまのことは知らなんだし、………」
「第一啓ちゃんにそんな働きがある思うてるのんが間違いやわ。うちはあべこべに、今に啓ちゃん養うて行かんならん思うてたぐらいやねん」
「そんなら聞くけど、―――」
と、雪子はなるべく妙子の方を見ないようにしているらしく、テーブルの上の、菊の花の挿さったガラスの一輪挿を両手で弄びながら続けたが、しかし少しも興奮している様子はなく、声の調子は平生の通りで、一輪挿を持っている細い指先も顫えを帯びてはいなかった。
「―――こいさん去年の冬ロン・シンで拵えた駱駝のオーバーコートな、あれは啓坊が拵えてくれはったんと違うか」
「あれはあの時云うたやないの、あの勘定が三百五十円懸ったのんを、薔薇の羽織と、立枠と花丸の衣裳を売って払うたんやわ」
「けど啓坊の婆やさんは、あれは啓坊が払うたげたんや云やはって、ちゃんとロン・シンの受取まで見せてはるねんで」
「………」
「それからあの、ヴィエラのアフタヌンドレスな、あれかてそうやてな」