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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
候
かしく
六月十三日
菅野やす
蒔岡幸子様
御許へ
こう書いてあって、同封してあった沢崎の書面と云うのは、―――
拝啓
梅雨鬱陶しき折柄貴家皆々様益御隆盛之段奉大賀候
一昨日は色々と御世話様に相成且御歓待に与り厚く御礼申述候
陳者蒔岡様之件その後協議申候処御縁無之申候間何卒御先方様へその旨御伝願上候御都合も有之候事故取急ぎ御返事申上候
種々御配慮を蒙り申候段重ねて厚く御礼申述候
拝具
六月十二日
沢崎 煕
菅野やす様
侍女
この、変に切り口上な二通の手紙は、いろいろの意味で夫婦をもう一度不愉快にさせないでは措かなかった。その第一は、これが見合いの相手からはっきり「落第」を宣告された最初の経験であると云うこと、―――始めて此方が「敗者」の烙印を捺される側に立たされたこと、―――にあるが、それは予め覚悟していたことだとして、夫婦が甚だ気を悪くしたのは、沢崎と菅野未亡人との手紙の書き方、―――この事件の取扱い方、であった。そう云うことを云って見ても始まらないけれども、沢崎の手紙は罫引きの書簡箋一枚へ(先日幸子が未亡人の許で見せられたのは巻紙へ毛筆でしたためてあったのに)一杯に収まるようにペン字で書いてあり、先ずそのことからして感じが悪く、文面に依ると「その後協議申候処」