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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

但し、中の二人は何か話し合っていて気が付かなかった様子であったが、

「お春どん、旦那さんにも悦子にも云うたらいかんよ」

と、幸子は直ぐに口止めをした。お春は幸子の顔色が急に変ったのを看て取ると、自分もひどく真剣な表情をして、

「は」

と答えたきり俯向きながら歩いていたが、幸子は動悸を静めるために、一丁程先を行く貞之助と悦子の後影に眼を遣りながら、わざと歩調をゆるめつつ歩いた。そして、そう云う時によく指の先が冷えて来るので、知らず識らずお春の手を握っていたが、黙っていると余計息苦しくなるので、

「お春どん、あんた何か、こいさんのこと知らん?………こいさんこの頃、ちょっとも家に落ち着いてないようやけど、………」

と、云うと、お春は又、

「は」

と答えた。

「なあ、何ぞ知ってたら云うて欲しい。………今のあの人から電話懸って来るようなことあれへなんだ?………」

そう云うと、お春は、

「電話はどうか存じませんけど、………」

と、モジモジしていたが、やがて口の内で附け加えた。

「………実はわたくし、先日西宮で二三遍お遇いしたことがございました」

「今のあの人に?」

「はあ、あの、………こいさんにも、………」