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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
幸子は、その時はそれきりにしたが、一番目の野崎村の後の幕間に、お春と用を足しに立って、廊下で又あとを聞いた。お春の云うところに依ると、彼女は先月の下旬に、尼崎の父が痔の手術で西宮の某肛門病院に入院した時、二週間ばかり暇を貰って父に附き添っていたのであったが、その間大概日に一遍は食事や何かを運ぶために尼崎の家と病院とを往復した。病院は西宮の恵比須神社の近くにあったので、いつも彼女は国道の札場筋から尼崎までバスに乗って行ったが、その往復の道で三度奥畑に邂逅した。一度は彼女が乗ろうとするバスから降りて来て擦れ違い、二度は停留場でバスを待つ間に出遇ったのであったが、奥畑は彼女と反対の方向、神戸行きにばかり乗って、野田行きに乗ったことは一度もなかった。で、バスを待つのに、彼女は国道を南から北へ横切って、山側の停留場に立つのであるが、奥畑は、その山側の停留場のうしろの方のマンボウから出て来て、国道を北から南へ横切って、浜側の停留場に立つのであった。(お春はマンボウと云う言葉を使ったが、これは現在関西の一部の人の間にしか通用しない古い方言である。意味はトンネルの短いようなものを指すので、今のガードなどと云う語がこれに当て篏まる。