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とおのものがたり
遠野物語
柳田 国男
「遠野物語」柳田國男、1910(明治43)年6月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,063 字 · 79 页
七四
七五
七六
カクラサマは人のこれを信仰する者なし。粗末なる彫刻にて、衣裳頭の飾のありさまも不分明なり。
七四 栃内のカクラサマは右の大小二つなり。土淵一村にては三つか四つあり。いずれのカクラサマも木の半身像にてなたの荒削りの無恰好なるものなり。されど人の顔なりということだけは分かるなり。カクラサマとは以前は神々の旅をして休息したもうべき場所の名なりしが、その地に常います神をかく唱うることとなれり。
七五 離森の長者屋敷にはこの数年前まで燐寸の軸木の工場ありたり。その小屋の戸口に夜になれば女の伺い寄りて人を見てげたげたと笑う者ありて、淋しさに堪えざる故、ついに工場を大字山口に移したり。その後また同じ山中に枕木伐出しのために小屋をかけたる者ありしが、夕方になると人夫の者いずれへか迷い行き、帰りてのち茫然としてあることしばしばなり。かかる人夫四五人もありてその後も絶えず何方へか出でて行くことありき。この者どもが後に言うを聞けば、女がきて何処へか連れだすなり。帰りてのちは二日も三日も物を覚えずといえり。
七六 長者屋敷は昔時長者の住みたりし址なりとて、そのあたりにも糠森という山あり。