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とおのものがたり
遠野物語
柳田 国男
「遠野物語」柳田國男、1910(明治43)年6月14日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,063 字 · 79 页
九五
九五 松崎の菊池某という今年四十三四の男、庭作りの上手にて、山に入り草花を掘りてはわが庭に移し植え、形の面白き岩などは重きを厭わず家に担い帰るを常とせり。或る日少し気分重ければ家を出でて山に遊びしに、今までついに見たることなき美しき大岩を見つけたり。平生の道楽なればこれを持ち帰らんと思い、持ち上げんとせしが非常に重し。あたかも人の立ちたる形して丈もやがて人ほどあり。されどほしさのあまりこれを負い、我慢して十間ばかり歩みしが、気の遠くなるくらい重ければ怪しみをなし、路の旁にこれを立て少しくもたれかかるようにしたるに、そのまま石とともにすっと空中に昇り行く心地したり。雲より上になりたるように思いしがじつに明るく清きところにて、あたりにいろいろの花咲き、しかも何処ともなく大勢の人声聞えたり。されど石はなおますます昇り行き、ついには昇り切りたるか、何事も覚えぬようになりたり。その後時過ぎて心づきたる時は、やはり以前のごとく不思議の石にもたれたるままにてありき。この石を家の内へ持ち込みてはいかなることあらんも測りがたしと、恐ろしくなりて遁げ帰りぬ。この石は今も同じところにあり。