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とおのものがたり

遠野物語

柳田 国男

「遠野物語」柳田國男、1910(明治43)年6月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,063 字 · 79 页

青空文庫

六八

そのあたりの地名に貞任というところあり。沼ありて貞任が馬を冷せしところなりという。貞任が陣屋を構えし址とも言い伝う。景色よきところにて東海岸よく見ゆ。

六八 土淵村には安倍氏という家ありて貞任が末なりという。昔は栄えたる家なり。今も屋敷の周囲には堀ありて水を通ず。刀剣馬具あまたあり。当主は安倍与右衛門、今も村にては二三等の物持ちにて、村会議員なり。安倍の子孫はこのほかにも多し。盛岡の安倍館の附近にもあり。厨川の柵に近き家なり。土淵村の安倍家の四五町北、小烏瀬川の河隈に館の址あり。八幡沢の館という。八幡太郎が陣屋というものこれなり。これより遠野の町への路にはまた八幡山という山ありて、その山の八幡沢の館の方に向かえる峯にもまた一つの館址あり。貞任が陣屋なりという。二つの館の間二十余町を隔つ。矢戦をしたりという言い伝えありて、矢の根を多く掘り出せしことあり。この間に似田貝という部落あり。戦の当時このあたりは蘆しげりて土固まらず、ユキユキと動揺せり。或る時八幡太郎ここを通りしに、敵味方いずれの兵糧にや、粥を多く置きてあるを見て、これは煮た粥かといいしより村の名となる。