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とおのものがたり

遠野物語

柳田 国男

「遠野物語」柳田國男、1910(明治43)年6月14日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,063 字 · 79 页

青空文庫

八七

この人の父大病にて死なんとするころ、この村と小烏瀬川を隔てたる字下栃内に普請ありて、地固めの堂突をなすところへ、夕方に政の父ひとり来たりて人々に挨拶し、おれも堂突をなすべしとて暫時仲間に入りて仕事をなし、やや暗くなりて皆とともに帰りたり。あとにて人々あの人は大病のはずなるにと少し不思議に思いしが、後に聞けばその日亡くなりたりとのことなり。人々悔みに行き今日のことを語りしが、その時刻はあたかも病人が息を引き取らんとするころなりき。

八七 人の名は忘れたれど、遠野の町の豪家にて、主人大煩いして命の境に臨みしころ、ある日ふと菩提寺に訪い来たれり。和尚鄭重にあしらい茶などすすめたり。世間話をしてやがて帰らんとする様子に少々不審あれば、跡より小僧を見せに遣りしに、門を出でて家の方に向い、町の角を廻りて見えずなれり。その道にてこの人に逢いたる人まだほかにもあり。誰にもよく挨拶して常の体なりしが、この晩に死去してもちろんその時は外出などすべき様態にてはあらざりしなり。後に寺にては茶は飲みたりや否やと茶椀を置きしところを改めしに、畳の敷合わせへ皆こぼしてありたり。