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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
自分の隣にいた曽根も先生の前へ行っている。純一は丁度好いと思って、曽根の背後の方へ行って据わって、高山先生の話を聞いた。先生はこんな事を言っている。
「秦淮には驚いたね。さようさ。幅が広い処で六間もあろうか。まあ、六間幅の溝だね。その水のきたないことおびただしい。それから見ると、西湖の方はとにかく湖水らしい。好い景色だと云って好い処もある。同じ湖水でも、洞庭湖は駄目だ。冬往って見たからかも知れないが、洲ばかりあって一向湖水らしくない」
先生の支那に行かれた時の話と見える。先生は純一の目の自分の顔に注がれているのに気が附いて、「失礼ですが、持ち合せていますから」と云って、杯を差した。それを受けると、横の方から赤い襦袢の袖の絡んだ白い手がひょいと出て、酌をした。
その手の主を見れば、さっき踊っているのを、瀬戸が別品だと云って褒めた女であった。
純一は先生に返杯をして、支那の芝居の話やら、西瓜の核をお茶受けに出す話やらを跡に聞き流して、自分の席に帰った。両隣共依然として空席になっている。純一はぼんやりして、あたりを見廻している。
同じ列の曽根の空席を隔てた先きに、やはり官吏らしい、四十恰好の、洋服の控鈕の孔から時計の金鎖を垂らしている男が、さっき三味線を弾いていた、更けた芸者を相手に、頻りに話している。