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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
「おや、いらっしゃいまし。安は団子坂まで買物に参りましたが、もう直に帰って参りましょう。まあ一寸こちらへいらっしゃいまし」
「往っても好くって」
「ええええ。あちらから廻っていらっしゃいまし」
少女の頭は萩の茂みの蔭に隠れた。婆あさんは純一に、少女が中沢という銀行頭取の娘で、近所の別荘にいるということ、娵の安がもと別荘で小間使をしていて娘と仲好だということを話した。
その隙に植木屋の勝手の方へ廻ったお雪さんは、飛石伝いに離れの前に来た。中沢の娘はお雪さんというのである。
婆あさんが、「この方が今度越していらっしゃった小泉さんという方でございます」というと、お雪さんは黙ってお辞儀をして、純一の顔をじいっと見て立っている。着物も羽織もくすんだ色の銘撰であるが、長い袖の八口から緋縮緬の襦袢の袖が飜れ出ている。
飲み掛けた茶を下に置いて、これも黙ってお辞儀をした純一の顔は赤くなったが、お雪さんの方は却って平気である。そして稍々身を反らせているかと思われる位に、真直に立っている。純一はそれを見て、何だか人に逼るような、戦を挑むような態度だと感じたのである。
純一は何とか云わなくてはならないと思ったが、どうも詞が見付からなかった。