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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

そんな馬鹿馬鹿しいことがある筈はないと、我と我が心を叱りながらも、胸の底からこみ上げて来る一種異様の戦慄をどうすることも出来なかったのだ。

手品師も、見物を余りに恐怖せしめることを憚かったのか、解体の残虐場面は、瞬く間に終って、次には、陽気な、美人組立て作業が始まった。

突如として起る、下座の華やかな行進曲。そのジンタジンタの楽隊に合わせて、道化師は、身振り面白く、舞台一面に転がった人形の首や手足を、拾っては、椅子の上の胴体へと投げつけるに従って、足は足、手は手と、元の場所へ、ピッタリと吸いつく、見る見る、バラバラの五体が一つに纒って行くのだ。

そして、最後に、ヒョイと首がのっかったかと思うと、その首がいきなりニコニコ笑い出す。道化師が繩をとき、猿轡をはずしてやると、美人は立上りさま、しっかりした足どりで、舞台の前方に進み出で、自分で目隠しをとって、艶かしく挨拶する。その顔は、まがいもなく、さっきの美しい女太夫、即ち賊の娘の文代なのだ。

二郎は、この美人組立てのトリックも知っていた。いつの間にか椅子が廻転して、本物の娘が、首手足を背景と同じ黒天鵞絨で隠し、胴体ばかりに見せかけて腰かけている。