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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

早業

……誰かが私達一家を呪ってでもいる様な。今にも私達一家のものが、何かの恐ろしい餌食になる様な。そんな気持ですのよ」

「では、何か、そんな疑いをお起しなさる様な理由でもあるのですか」

「それがちっともございませんの。ですから、なお怖いのですわ。どういう風の禍ですか、えたいが知れませんもの」

無論妙子は、名探偵としての明智小五郎を知っていた。で、この妙な打開け話も、彼にすがって、彼の判断を乞う為であったかも知れない。併し、全然現実的根拠のない夢物語では、いかな明智にも、どうする術もないのだ。そして、丁度そうしている所へ、ホテルの小使が、東京から電話だといって、妙子を探しに来たのであった。

早業

妙子が帰宅してから三日目の午後、突然、今度は明智の所へ、東京の波越警部から電話が掛って来た。波越氏は読者も知る、警視庁刑事部名うての鬼刑事だ。

受話器を取ると、波越氏のあわただしい声が手短かに挨拶をして、用談に入った。

「詳しいことはいずれ御目にかかって御話しますが、僕の知合いの福田得二郎という実業家の所に妙な事件が起って、福田氏から是非あなたの御援助を得たいというのです。