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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
八対一
四つの目が、焔をはいて睨み合った。室内に、名状し難き殺気がみなぎり渡った。
八対一
「ワハハハハハハハハハハ」
突如として、笑いが爆発した。奥村源造が腹を抱えて笑い出した。
「オイ、探偵さん。こいつは愉快だね。一足おそかったよ。おそかりし探偵さんだ。ワハハハハハハハ、俺はもうお先きに仕事を済ませてしまったのだよ。君が妨げようとして、あんなにもがき廻っていた仕事をだぜ。オイ、分るかね。玉村一家のものは、今頃どこにどうしているか、君は知っているかね」
勝ちほこった源造が、気違いのようにわめいた。だが、明智がそれに驚く筈はない。
「旗本屋敷の穴蔵で、水責めにあっているとでも云うのですか」
彼は皮肉な調子で聞返した。
「ゲッ、それでは、キ、貴様、あれを、……」
源造は極度の狼狽に、口も利けぬ。見る見る、額には玉の汗が浮んで来た。
「ご安心なさい。玉村親子は、無事に救われました。今頃は邸に帰って、暖いストーブの前で、おくれた晩餐をやっている時分ですよ」
それを聞いた源造の顔は、絶望にひん曲った。一刹那、サッと血の気が失せたかと思うと、次の瞬間には、顔中が紫色にふくれ上り、額の静脉が虫の様に蠢いた。