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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
ダイヤモンド
ダイヤモンド
玉村商店宝石部の第一等の得意先に、牛原耕造氏という金満家があった。二年程前、アメリカから帰った、謂わば成金紳士で、社交界には余り名を知られていないが、一種の宝石道楽で、この二三ヶ月の間に玉村商店から買上げた額は、到底由緒正しい貴族富豪などの及ぶ所ではなかった。
買上げた宝石を、誰に与えるのか、夫人も子供もない全くの独り者で、小石川区内の、もと旗本の邸だという、古い大きな家を買求めて、数人の召使と共に住んでいた。
アメリカ式な、無造作な人物で、自分で自分の自動車を操縦して、よく玉村商店へ遊びに来たが、話し好きで、どことなく愛嬌があったので、主人の玉村氏ともじき懇意を結び、お互に訪問し合う程の間柄であった。
前章の出来事があってから、約一ヶ月の後、年を越して一月の終りに近いある日のこと、玉村氏は、一郎と二郎と妙子の三人の子供を連れて、牛原氏の晩餐会に招かれた。
約束はもう二三ヶ月も以前から出来ていたのだけれど、得二郎氏変死以来引続く凶事に、晩餐会どころではなく、長い間延び延びになっていたのが、この一月程、何の変事も起らず、流石の悪魔も退散したかと思われる程無事な日が続いたので、漸く約束を果す運びになったのである。