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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

一郎と二郎は、よろよろと立上ると、それに近づき、椅子やテーブルを投げつけ、踏みくだいて、火を消した。むせ返る煙を、少しでも少くしたかったのだ。

悉く踏み消した積りで、元の場所に帰って、グッタリと倒れたが、どういう訳か、まだ部屋の中が薄明るく、チロチロと自分達の影が動いて見える。

変だなと思って、その方を振向くと、分った分った。源次郎の骸骨の、ボロボロになった着物に火が移って、チョロチョロと鬼火の様に燃えているのだ。

着物が湿っているので、威勢よくは燃え上らぬ。青い焔が、着物の裾や袖を、人魂みたいに、不気味に這っている。

明滅する焔に、下方から照らし出された骸骨の顔は、陰影の加減で、ある時は笑い、ある時は泣き、或は落ち窪んだ目を怒らせ、今にも食いつかんばかりの、物凄い憤怒の形相となる。

妙子は失神した様に俯伏していたから、この恐ろしい光景を見なかったけれど、残る三人は、見まいとしても引きつける、死霊の怨念に、目をそらす力もなく、呼吸も止まる思いで、それを眺めていた。

突然二郎が歯を喰いしばって唸り出した。

「畜生め、畜生め」

唸ったかと思うと、彼はとうとう、物狂わしく、骸骨めがけて飛びかかって行った。