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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
用紙を検べ筆蹟を検べて見たが、何の思い当る所もない。福田氏の知り合いには、一人もそんな筆癖の男はいないのだ。
「十一月廿日」や「十四」が何を意味するのか、差出人は誰なのか、戸締厳重な部屋の中へどうして持って来ることが出来たのか、凡てが全く想像も出来ない丈けに、ひどく不気味に思われた。「幽霊ででもなければ出来ない仕業だ」と考えると、何かしらゾッとしないではいられなかった。
だが、奇怪はそれで終った訳ではない。その次の日も、又次の日も、福田氏が目を覚ますと、必ず毛布の上に一枚の紙切れがのっていた。文句はやっぱり簡単な数字で、
「十三」「十二」「十一」「十」「九」
と一日毎に一目下りに、順序よく変って行く。云うまでもなく、福田氏はそんなことが起り始めてから、就寝前の戸締りを一層念を入れて厳重にしたのだけれど、幽霊通信には、戸締りなんか邪魔にならぬと見えて、何の甲斐もなかった。
福田氏は、数字が「九」まで進んだ時、もう我慢がし切れなくなって、甥の玉村二郎を呼びよせて、この快活な若者の智恵を借りることにした。二郎は宝石王玉村氏の二男で、妙子の兄に当り、ある私立大学に籍を置いて、遊び暮らしている、二十四歳の新青年であった。