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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
万に一つも失敗はない筈だ。と、彼が安心し切っていたのも、決して無理ではなかった。
彼は部下を集めて、船中の酒盛りを始めた。
「みんな喜んでくれ。俺はとうとう完全に念願を果したのだ。あいつの一家をみなごろしにしてしまったのだ。サア、充分呑んでくれ給え。あすの朝、もう一度上陸して今夜の仕事の結果を確めたら、我々の仕事はおしまいだ。どこか遠くの海岸へ逃げて、そこで解散だ。諸君にはタンマリお礼をする。一生困らぬ丈けのことはする積りだ。そして、俺は今夜盗み出して来た玉村の娘と一緒に、外国へ高飛びだ。ハハハハハハハ、愉快愉快、俺れはやっと重荷をおろした。生れてからこんな嬉しい気持は初めてだ」
源造は一人で喋り、一人で飲んだ。
シャンパン酒が、次から次と、ポンポン景気のよい音を立てた。
部下の者共も、有頂天になっていた。彼等は玉村一家を恨む訳ではなく、そこの人達がみなごろしになったからとて、別段嬉しいこともなかったが、一生困らぬお礼の金が有難かった。酒もまわらぬ内に、目先にチラつく札束に酔っぱらっていた。
彼等は深い事情は何も知らなかった。ただ夥しい礼金に目がくれて、奥村源造を首領と仰いでいるに過ぎない。