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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
断末魔
余りのことに、もう驚く力もないのだ。笑ったかと思うと、両手を顔に当てて、さめざめと泣き出した。
「アア、ひどい。あんまりひどい。俺はこれ程の報いを受けなければならないのだろうか。最後の毒薬まで、シャンパン酒と入れ替えて置くなんて。君は悪魔だ。……悪魔だ」
流石の明智も、この体を見ると、少々後悔し初めた。あまり手落ちなくやり過ぎたのではなかろうか。職務とは云え、少し無慈悲すぎたのではなかろうか。と、自から疑う程の気持になった。
だが、悪魔はどこまでも悪魔であった。彼はもう泣いてはいなかった。泣くどころか、顔中を筋だらけにし、小鼻をいからし、口をひん曲げ、世にも恐ろしい呪いの言葉をはき始めた。
それを聞くと、明智はやっと安堵した。やっぱり俺のやり方は正しかったと思った。それ程も、悪魔の呪咀は恐るべく憎むべきものであった。
断末魔
彼は激怒した。半狂乱となった。はてはさめざめと泣き出した。両手を顔に当てて、蹲って血の涙を流した。
血の涙を流した。読者諸君、それが単なる作者の形容ではないのだ。真実、顔を覆った彼の指の間から、節くれ立った指の間から、ボトボトと真赤なしずくがたれたのだ。