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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

と叫んで、部屋の隅へぶっ倒れる。

「馬鹿野郎め。どいつもこいつも大馬鹿野郎め。ワハハハハハハハ」

猛獣の咆哮するが如き罵声が、部屋中に響き渡った。

仁王立ちになった源造の顔は、赤鬼の様に血に染っていた。口から溢れる血が、両手で圧えていた為に、顔中に拡がったのだ、彼は舌を噛切って自殺しようとしたのだが、気力が足らず、失敗した。怒号する声の呂律が廻らぬのは、それが為だ。

「サア、どうだ。俺はこうして死ぬんだぞ。こればっかりは邪魔が出来まい。探偵さん。何をボンヤリしているんだ。折角捕えた犯人が、死骸になってしまうぜ。ホラ、俺はこうして、もう一度、ウント舌を噛めば、のたうち廻って死んでしまうんだぜ」

わめくにつれて、傷ついた口中から、タラタラと血が流れ、顎を伝ってしたたり落ちた。

「お父さん、お父さん。堪忍して」

突き倒された文代が、起き上って、又しても半狂乱の父親にすがりついた。

「エエ、うるさいッ。すべたの知ったことかッ」

恐ろしい怒号と共に、彼女は再び投げ飛ばされた。

「サア、探偵さん。見ていてくれ。俺が舌を噛み切ってのたうち廻る所を。だが、その前に云って置き度いことがある。