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まじゅつし

魔術師

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页

青空文庫

君はまだ執念を捨てないのですね」

「アア、あたしは自殺をすることも出来ないのですか。あんまりです、あんまりです」

妙子は床の上に身を投げて、遂に泣き伏してしまった。

雄弁な自白だ。明白な服罪だ。それにしても、宝石王玉村家の令嬢と持て囃され、女王の様にふるまっていた妙子が、又、稀代の毒婦として、世間を、警察を、思うがままに飜弄していた彼女が、この服罪は余りと云えばみじめであった。

一郎と二郎とは、昨日まで我が妹といつくしんだ、妙子のこの有様を見るに耐えなかった。

「父を殺した憎い奴ですが、かりそめながら兄妹のちぎりを結んだ女です。どうかいたわってやって下さい。……オイ、妙子、もう覚悟を極めるがいい。いつまで泣いていたところで、仕方がないのだから」

一郎が、恨みを忘れて、やさしく声をかけた。

だが、俯伏した妙子は、その慰めの言葉も聞えぬものの如く、毒婦にも似合わしからぬ、未練な泣声をやめなかった。

森と静まり返った空家の一室、赤茶けた電燈の光、黙り返っている一団の人々、その中に、怪美人妙子の、甲高い泣声ばかりが、恨めしく、悲しく、いつまでもいつまでも続いていた。