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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
無残絵
口を動かしているけれど、余りの事に声も出ない様子だ。
「どうしたんです」
巡査が驚いて駈け寄るのと、二郎の棒の様な身体が、彼の両手の間へ倒れかかるのと同時だった。
「ワッ、これは、……」
流石の巡査も、今二郎が見た、死体の上半身を覗くと、思わず悲鳴を上げた。
一体そこには何があったのか、二郎青年に脳貧血を起させ、商売人の警官を慄え上らせたものは、そもそも何であったのか。
無残絵
「もう大丈夫です。ありがとう」
一寸の間に、二郎青年は、眩暈を恢復して、巡査の手から離れたが、併しそれ以上口を利く元気はなかった。彼等、二郎青年と、巡査と、書生とは死骸から遠く離れた室の一隅に立ちすくんだまま、真青に引痙ったお互の顔を、まじまじと眺め合っていた。婆やや女中たちは、死体の足の部分をチラッと見た丈けで恐れをなして、廊下に佇んだまま這入って来ようともしない。
「実にひどい。実にひどい」
やっとしてから、巡査が、死骸の方を見ぬ様に顔をそむけたままで、何か人に聞かれては悪い内密話みたいに、低いしわがれ声で云った。
誠に、人々がかくも驚き恐れたのも無理ではなかった。福田氏の死体は普通の殺人事件などでは見ることも出来ない、一種異様の恰好をしていたのだ。