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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
窓なき部屋
、第4水準2-93-20)橋上流の両岸、当時その辺にいたと覚しき荷舟乗合舟の類を、虱つぶしに調べ廻ったが、遂に何の得る所もなかった。
白※(「髟/(冂<はみ出た横棒二本)」、第4水準2-93-20)橋上流には、遠く千住大橋まで一つの橋もなく、しかも大川はその中間で殆ど直角に折れ曲り、見通しが利かぬので、人知れずこの異様な流し物をするには、究竟の場所であったに相違ない。その上綾瀬川その他支流や入江なども多く、捜査範囲は非常に広い地域に亙り、如何な警察力を以てしても、余りにも漠然たる探し物であった。
犯人につき纒う怪談、獄門舟の妖異、加うるに人気者明智探偵の誘拐、新聞編輯者にとって何という好題目であろう。社会面は福田氏殺害事件で埋められ、従って世間の騒ぎは日一日と甚しくなって行った。
窓なき部屋
明智小五郎は、うたたねの夢から覚めた様な気持で、ふと目を開いた。
少々頭痛がするのを除くと、凡てが甚だ快適であった。手狭ながら贅沢に飾られた洋室、天井から下った古風な併し贅沢な空気ランプ、深いクッションの立派な長椅子。……彼は意識を恢復して、上野駅での出来事を思起した刹那、猿轡と手足の繩目を幻想したが、どうして、繩目どころか、全く自由な身体で、彼はその長椅子のクッションに深々と横わっていたのである。