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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
実に変な聞き方だけれど、その部屋で目を覚ました人にとっては、当然の質問であった。
「夜ですの。今八時を打った所ですわ」
「何日の?」
「十一月、十八日」娘はそう答えて、口に手を当ててクスクス笑った。
「僕が上野駅についたのは十七日の晩だから、丸一日眠っていた訳ですね」
と独言の様に云ったものの、何だか変な感じだった。娘の妙に慣れ慣れしい様子と云い、窓のない部屋といい、その上いつまでたっても、頭がフラフラして、部屋そのものが不安定に感じられるのも不快だった。
「この部屋は一体何階にあるんです」明智はたまらなくなって、変なことを尋ねた。「何だか高い塔の上にいる様な気持がするんです。若しや本当に、そんな高い建物の上にあるんじゃありませんか」
「そうかも知れませんわ」娘は相変らず、どこか表情の奥で笑っていた。「でも、居心地は悪くないでしょう。当分御滞在の間、出来る丈け御心持のいい様にと、云いつけられていますのよ。お気に召さないことがありましたら、御遠慮なくおっしゃって下さいまし。御食事でも何でも」
娘はチラと銀盆の上の、オートミールの皿を見て云った。
「滞在ですって。