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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
で、切断した端を身体の下に隠して、何食わぬ顔をしていると、これはどうだ。まるで、鎖の切れるのを待兼ねていた様に、又してもドアが開いて、今度は二人の覆面の大男が、一人はピストルを構え、一人は長い麻繩を持って這入って来ると、唖の様にだんまりで、ソファに寝ていた明智を、そのままソファぐるみ、グルグル巻きにして、全く身動きも出来なくなったのを確め、黙ったまま、ノッソリと出て行ってしまった。
さっきから、どうもそうではないかと思っていたが、これで、この部屋のどこかに見張りの穴があることが明瞭になった。
一体どこから覗いているのかと、明智はソファに縛られたまま、首丈けを動かしてグルッと部屋を見廻したが、どこにもそれらしい隙間はない。ドアの鍵穴にはちゃんと紙が詰めてある。
窓のない常夜の部屋、眩暈の様にゆれる部屋、その上に、今は又、隙間もないのに、絶えずどこからか見張られていることが分った。凡てが普通でない。どこかしら、飛んでもない思い違いがある様な、名状し難い不思議な気持だ。
流石の明智小五郎も、狐につままれた形で、次に採るべき手段も浮ばずぼんやりと正面の壁を見つめていた。