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まじゅつし
魔術師
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1930(昭和5)年7月~1931(昭和6)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 139,264 字 · 280 页
確かに人の泣き声だ。しかも、その声の調子にどこやら聞覚えがある。
「ア、兄さんがいない。兄さんはどこへ行ったのです」
一座を見廻していた二郎が叫んだ。誰も答える者はない。皆真青な顔をして黙り込んでいる。
「僕、探して来ましょう」
二郎は立上って、廊下へ出た。廊下の端から端へと兄を尋ねて歩いた。二階へ上った。そこにも兄の姿は見えぬ。併し叫び声は、どうやら上から聞えて来ることが分った。彼はふと思いついて、時計塔への階段の下に立止った。もう叫声は聞えぬ。だが念の為だ。彼はいきなり駈け上った。三段一飛びの勢いで頂上の機械室に達した。
見ると、歯車の間に蠢く人影。又しても彼だ。
「オイ、音吉じゃないか。そこで何をしている」
二郎の怒鳴り声に、相手はハッとした様に振返った。音吉爺やだ。
「オイ、音吉、お前そこで何をしているのだ」
二郎がつめ寄ると、音吉爺やは意外にも、却って「丁度よい所へ」と云わぬばかりの様子で、小暗い隅に横わっている一物を指さした。よく見ると、それは探していた兄一郎のグッタリとなった死骸の様な身体であった。
「どうしたんだ。誰が兄さんをこんな目に……」