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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
塔上の黒トカゲ
なあに、こんな脅迫状なんか黙殺してもかまわないのです。お嬢さんの命にかかわるようなことは断じてありません」
明智が頼もしくなぐさめても、一徹の岩瀬氏は彼の言葉を信用しない。
「いやいや、あの恐ろしい悪党は、何を仕でかすか知れたものではない。いくら高価とはいえ、たかが鉱物です。鉱物などを惜しんで、娘に万一のことがあっては取り返しがつきません。わしはやっぱり賊の申し出に応ずることにしましょう」
「それほどの御決心なれば、僕はお止めしません。一応敵のたくらみにかかったと見せかけて、宝石を手渡すのも一策でしょう。僕の探偵技術からいえば、むしろその方が便宜なのです。しかし岩瀬さん、決してご心配なさることはありません。僕はハッキリお約束しておきます。お嬢さんもその宝石も、必らず僕の手で取り戻してお眼にかけますよ。ただちょっとのあいだ、あいつにぬか喜びをさせてやるだけです」
明智はなんの頼むところあってか、自信に満ちた力強い口調で、こともなげに言い切るのであった。
塔上の黒トカゲ
その翌日、約束の午後五時少し前、岩瀬庄兵衛氏は、文字通り敵の条件を守って、明智以外のなにびとにも告げず、ただ一人、T公園の入口、天空高くそびえる鉄塔の下にたどりついた。