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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

見ず知らずの、それも「お尋ね者」の俺と一緒に東京に出てくるほどだから、気丈な女にはちがいないが、この東京にさっさとひとりで生活の根をおろしている。ふーんと俺が思わず感嘆の声をあげると、

「なーに」

「いや、兄さんとは驚いたな」

「じゃ、なんて言うの」

いちいちケチをつけやがる。

「俺にはちゃんと名前があるんだ。加柴四郎。通称四郎さん」

「四郎さんは、いい人なのね」

「なんだい、そりゃ。悪い男だと思ったのか」

「悪い人だと思ったら、一緒に東京へ出てこない」

「ピストルは返したよ」

俺はもっとほかのことを言いたかった。あのおいらんの科白じゃないが、もっと気分の出ることを言いたかった。だのに、こんなむしろ気分をこわすようなことを言っていた。

すると、波子が――波子のほうは、もっと気分をこわすことを言った。

「あの晩、お女郎屋さんへ行ったんでしょう? 東京へついた晩……」

「どうして分る?」

「お女郎屋さんが好きなのね」

「そうでもないさ」

「京城だってすぐお女郎屋さんへ行ったじゃないの」

「男だもの」

「男の人って、みんな、お女郎屋さんが好きなの?」

「ほかの話しようや」

と俺は言って、