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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
今とちがって特効薬のない当時だから、寒中でも部屋の窓をあけ放っての大気療法という原始的な方法をとるほかはなく、俺はアパートの部屋にひとりで寝ていた。
あるとき、ひとりでうつらうつらしていると、次ページの上図の(一)のような景色が俺の脳裡に描かれた。荒野を俺はひとりで歩いている。荒野を行くと言うとキリストみたいで照れ臭いが、その荒野には、どういうわけか碁盤のような目がついていて、キリストの荒野とはまるでちがう。
「図(一)」のキャプション付きの図
図(一)
俺は俺が荒野の遙かかなたを歩いている小さな姿を、こっちから見ているのだ。つまり俺は歩いている俺と、その俺を見ている俺の二人に分裂している。分裂と言っちゃ大ゲサでこういうふうに、夢の中なんかで、自分の姿を自分で見るということは誰にだってあることだ。眼がはっきりさめているときだって、こういうことはある。自分を客観的に見るとは、こういうことだろう。
珍しいことでもなければ、不思議なことでもないのに、俺はそのとき、歩いている俺とそれを見ている俺が二人いるのはおかしいとあわてた。あわてるほうが、むしろおかしいのだが、これはまずいぞと俺はあわてたのだ。