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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

手の中にはいってしまいそうな小さなマメ(ピストル)だった。

「ふむ」

運転台の男と喧嘩するには、これがいるだろうと、さも丸万がピストルをくれたみたいだった。こっそりくれたのだが、

「護身用か」

と俺は言って、丸万の顔をしかめさせた。女持ちかと俺は言いたいところだった。だから、つい不満の声になっていた。女がハンドバッグにしのばせておくような小型のコルトだ。

「四郎さんなら、結構これで……」

「いや、俺は、パチンコは不得手だ」

前に一度この隠語の注釈をしたと思うが、当時はピストルのことをパチンコと言っていた。

「腕より度胸だよ」

丸万が言うと、運転台から、

「いやなら、あたしが預かろうか」

ふてぶてしく若者が言った。

「いやなものを何もやることはねえだろう。ねえ、兄貴、俺が貰っとこうか」

「ロク! 言葉がすぎやしねえか」

と丸万が言った。ロク? と俺は眉をあげて、コルトをソトパア(外ポケット)にいれると、丸万が、

「この加柴の四郎さんは、うちの先生と、もとは兄弟分だったんだ」

そう言って、運転台の若者をたしなめた。

「客分として上海へ招いた四郎さんに失礼な口をきいちゃ、先生にもすまねえぜ」