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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「だから、どうしたらいいか、智慧をかりたいんだ」

丸万は短く太い指で無精ひげを撫でくり回していた。

「俺はもう死ぬほど惚れてるんだ」

と俺は言った。俺にとっては生れて初めての恋なのだと俺は言いたいところだった。

そこへ、とんとんと階段を駈け昇る足音がして、

「いらっしゃい」

クララが、たった今、外出から帰って来たようなワンピース姿で現われた。おや? と思いながら俺は、クララがいつもみたいな商売用の恰好でなく、カタギのような姿をしているのを、初対面の丸万に見せることができたのを喜んだ。そしてまた、俺としても、俺の女房になった場合のクララの姿をそこに見るおもいで、眼をパチパチやりながら、

「この子に俺はホの字なんだ。いい子だろう」

と丸万に言った。

「いやねえ」

クララは俺をぶつ真似をして、

「ちっとも、いい子じゃないわ」

その言い方が、俺の欲目には、いかにもあどけなく可愛く感じられた。

「照ちゃんに言ってんじゃないよ」

俺はクララにそう言って、

「ね、いい子だろう」

と丸万にもう一度言った。

「うん。こりゃ、いい子だ。メンマブ(面眩)だ」

と丸万は素直に、テキヤ言葉で言えばオイタク(相槌)を打った。