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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
砂馬には身うけの金のことで、前に俺は相談に行っていて、
「よし、考えてやろう」
と砂馬から、侠気に富んだ返事を貰ったが、すぐ二日ほどして、俺は、
「あれは、もうやめた」
と、みっともないことを言わねばならなかった。その俺は袋叩きにされたための赤あざだらけの、顔までみっともない俺だった。
「そのツラはなんだ」
「ヒモがついてやがった」
口をきくと、顔の筋肉が痛かった。
ヒモに殴られたのかと砂馬は言った。いや、そうじゃないんだ、ヤグラをあげた(怒ってあばれた)はいいが、多勢に無勢でやられちゃったと、俺は繃帯をした手を隠すようにした。
「馬鹿だな、加柴も」
砂馬は笑った、嘲笑ではなかった。
――その砂馬に俺は言った。
「砂馬さん、慷堂先生に会ったかい?」
まるで少年に戻ったかのような俺の声だった。砂馬は黙っていた。
否定しない砂馬に俺は言った。
「砂馬さん。慷堂先生に聞いてくんないか」
瀬良という支那浪人がいるかどうか。いるとしたら、その瀬良という人はどこに住んでいるか。
「砂馬さん。聞いてくれよ」
甘ったれた声だなと俺は思った。あぐらの左足を膝の上に乗せた砂馬は、左手の親指で足の裏をこすりながら、俺を睨みつけていた。