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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
おそらく、父のたましいはあたしに付いていて、あたしのすることを助け、あたしのしたことでなぐさめられるに違いない。
――死ぬまでにいちど会いたい、ひと言だけ云ってやりたいことがある。
そう云ったときの父の声や、見るに忍びないほど苦しげな表情は、いまでもはっきりと記憶に残っている。母はあの男たちとともに、父の心をふみにじり、父の一生をずたずたにしたのだ。一人の父を、よってたかって責め殺したようなものだ。無力で、温厚な父、……どんなに辛く、苦しく、くやしいことだったろう。「ひと言だけ云ってやりたい」と云いながら、そのひと言さえ云うことができずに死んでいった。
――まだ三人残っている。
桝屋の佐吉があげたのは八人だったが、あたしはその中で五人を選んだ。その五人はいまでも、いろいろな意味で人を苦しめ、騙し、泣かせている。他の三人はゆるしても、五人だけはゆるすことのできない人間だ。
――あと三人。
湯島横町のこの家は引越さなければならない。青木さまはきっと、この家を見張るに違いない。実家のほうも調べれば、嘘だということはすぐにわかってしまう。あれはあたしの友達の家なのだから、そして、友達のおいせさんはもうお嫁にいった筈だから。