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ごべんのつばき

五瓣の椿

山本 周五郎

「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页

青空文庫

の主人、源次郎だということを申上げるつもりだ、ということをはっきり云ってやった。

――このためにあの人が一生苦しみ、死ぬまでおろすことのできない重荷になるように、と思ったからです。

わたくしはいま「むらた」の離れでこれを書いているが、初めて寮へ火をつけたときのような、張り詰めた気持はなく、むしろ恥ずかしさと、自分が僭上だった、というおもいで苦しんでいる。

――御定法で罰することのできない罪。

あのときはそう書いたし、そう信じて疑わなかったけれども、御定法に代って「自分が罰する」自分が罪を裁く、などと考えたことは誤りであった。もっとも憎んでいるじつの父を「生かしておこう」と思ったとき気づいたのだが、人を殺すことは罰することでもなく、罪のつぐないをさせることでもない。その人の罪は、御定法で罰せられないとすれば、その人自身でつぐなうべきものだ、ということに気がついたのである。

――だが母だけは死ななければならなかった。

母の血のながれているわたくしも死ななければならない。その覚悟は初めからできている、磔でも火焙りでもいい、早くお裁きを受け、処刑されて、あの世の父のところへゆきたいと思う、いまはそれだけが願いである。