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ごべんのつばき
五瓣の椿
山本 周五郎
「講談倶楽部」1959(昭和34)年1月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,721 字 · 296 页
「いまにわかるわ」とおそのは微笑した、「あんたも女になればあたしの気持がきっとわかることよ」
「おっ母さんの気持なんておっ母さんだけのものよ、おっ母さんは自分のことしか考えやしない、自分がたのしむためならどんなことでもするけれど、ひとのためには指一本動かす気もないのよ、お父つぁんにさんざん不人情なことをしたあげく、死水も取ってやらずに、面白味のない人だなんて」おしのは声を詰まらせ、両手で顔を掩いながら云った、「味もそっけもない、退屈な人だったなんて、それじゃあお父つぁんが可哀そうだわ」
「なにもこの人のためにあんたが、そんなに悲しがることはないのよ」とおそのが云った、「いまだから本当のことを云うけれどね、おしのちゃん、この人はあんたの父親じゃあなかったのよ」
「そんな云い訳は聞きたくもないわ」
「この人は赤の他人だったのよ」
「でたらめを云わないで」とおしのが云った、「自分がなにを云ってるかもわからないんじゃないの、赤の他人だなんて、いったいどういうことなの」
「あんたの親はこの人じゃないの、本当の父親はほかにいるのよ」
おしのは母の顔をみつめた、「おっ母さん、そんなばかなことを云って」