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にんげんひょう
人間豹
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1934(昭和9)年1~2月、5月~1935(昭和10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,989 字 · 311 页
神谷は言いながら、縁側に出て、オズオズと縁の下を覗いてみた。覗いたかとおもうと、「アッ!」と低い叫び声を立てて、あとじさりをした。
「いるの? 縁の下に」
蘭子たちはもう中腰になって、まっ青な顔で逃げ支度をしていた。
いたのだ。縁の下の奥の薄暗い地面に、一匹の猛虎が、グッタリと横たわっていたのだ。
神谷は一瞬間ためらっていたが、勃然と湧き上がる憎悪にわれをわすれて、庭に飛びおりると、身構えをして、縁の下を覗き込みながら、どなりつけた。
「恩田、出てこい、卑怯なまねをするな。さあ出てこい。きょうこそは逃がさないぞ」
だが、神谷の意気込みにもかかわらず、虎は返事もしなければ、身動きもしなかった。
眠っているのかしら、いや、そんなはずはない。変だぞ。ああ、そうだ、もしかしたら……
神谷はそこに落ちていた棒切れを拾って、思いきって、縁の下の虎を突いてみた。動かない。妙にクナクナした手応えだ。
「なあんだ。皮ばかりじゃないか。あいつ、こんなところへ虎の縫いぐるみを脱いで行ったんですよ。大丈夫、逃げなくっても大丈夫です」
彼は座敷の二人を安心させておいて、その虎の皮を縁の下から引きずり出した。