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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

若しこの男が香具師であったら、彼の人寄せの手段は、実に見事に成功したと云わねばならぬ。又若し彼が、R洋服店に雇われた一種の宣伝係であったとすれば、通行者の注意を、かくもショウ・ウインドウに集め得たことによって、これ亦非常の成功であったと云わねばならぬ。だが、この男は、香具師でも宣伝係でもなかったのだ。

「ちょっとお尋ねしますが、さっきから何を見つめていらっしゃるのですか。何か面白いものがあるんですか」

一人の洋服紳士が、たまり兼ねたのか、慇懃に言葉をかけた。

「アア、何をとおっしゃるのですか」

インバネスの怪人物は、びっくりした様に振返って、紳士の顔を見、それから彼の背後の夥しい群集を眺めた。

「僕は一種の銀座人種でしてね。銀座の事には可成詳しいつもりですが、今このショウ・ウインドウの前を通りかかって、ふと気がつくと、いつもの蝋人形がいなくなっているのです。見知越しの蝋人形がですよ。美しい奴でした。まだ若い娘でね」

インバネスが妙なことを云い始めた。彼の声は異様に甲高くて、隣に立っている紳士に話しかけているのが、群集のうしろの方まで聞きとれた。

「この洋服店のものが飾り替えたのではありませんか、そこに立っている女人形と」