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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

紳士はこの結論に、異様のショックを感じないではいられなかった。彼は殆ど反射的に、その夕刊を掴み取ると、ツカツカとショウ・ウインドウに近づいて、ガラスに鼻の頭をすりつけんばかりにして、新聞の写真と、長椅子の上の人形とを見比べ始めた。

群集も、今はたまり兼ねて、ドッと津浪の様にガラス板の前に押しよせた。

すると、丁度その時、歌舞伎芝居の月が出る様に、パッとショウ・ウインドウの照明が点じられた。店内の人達も、この騒ぎを知って、マネキン人形の正体を確めて見ようとしたのだ。

ショウ・ウインドウの前面には、数も知れず群がる顔、背後からは、ガラス戸を開けて、二人の店員が飾場へ入って行く。

明々と照らし出されたショウ・ウインドウの中央、赤い紋織のソファに寄りかかって、襞の多い毒々しく派出な洋装に包まれたマネキン人形。

オ、似ている。イヤ、そっくりだ。瓜二つだ。

皆が皆、心の中でそう思った。併し、誰も物云う者はなかった。水を打った様にシーンと鎮まり返っている。

マネキンの顔には、壁の様に厚化粧が施してある。恐らくは、死顔を隠す為の、犯人のさかしらであろう。だが、似ている。